1998年12月、自治労・自治研地域教育政策作業委員会は、「教育を地域に取り戻すために
15の提言」を刊行しました。同年9月には、中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」が出され、教育分野における地方分権の議論が活発化した時期でした。このような中、中央集権型の教育行政システムから脱却し、地方が特色ある地方行政を行うための具体的な提言を自治労が行ったことは意義深いものがありました。
それから10年、少子高齢化の進行と構造改革による格差社会の展開は、教育についての諸条件を大きく変えました。地域のつながりの希薄化が指摘される中、児童虐待や経済格差などの問題が顕在化しています。学力向上への社会的な圧力が高まる中、詰め込み教育の復活など、子どもが地域でのびのびと育つことを妨げる状況があります。
また、社会的課題の複雑化により、大人の学びの重要性が増し、社会教育・生涯学習の必要性は高まりつつあるといえます。しかし、生涯学習という言葉からは、余暇活動や趣味的なものというイメージが未だ強くにじみ出ているのではないでしょうか。実際に行われている社会教育・生涯学習が地域の実情と多様なニーズに合ったものかどうか、検証する必要があります。
一方で、地方自治体をめぐっては、財源移譲なき地方分権の進行により地方財政が疲弊し、コストと人員削減ありきの地方行政改革が断行されています。「官から民へ」の大合唱のもと、学校教育・社会教育を含めた多くの自治体職場が民間委託され、これまで蓄積されてきた経験やノウハウが受け継がれない状況が見られるようになりました。
子ども、大人を問わず、教育は「人が人を育てる」職であり、「育てる人」も経験の中でしか育たないという、生産性の向上や効率化が図りにくい職場です。減量合理化を目的とした職員の再編でもたらされる結果は、「経験的専門性の喪失」、つまり、経験の蓄積継承が途絶える、力量のある職員が職場を追われるということであり、裏を返せば市民サービス全体の質の低下にほかならないといえるのではないでしょうか。
こうした状況の変化をふまえ、私たち教育関連公共サービス労働者は今後何を目指すべきなのか、中期的な視点での地域教育のあり方を模索するため、2007年12月に「第2次・自治研地域教育政策作業委員会」が組織され、1年半にわたって議論を深めてきました。そしてここに、10年ぶりの「提言」をお示しするに至りました。
本提言を貫くおもな視点は次の通りです。
- 地域における教育政策の決定権は原則として自治体が持つべきであり、それに向けた真の分権を実現する。
- 学校を地域の一機関として位置づけなおし、学校の持つハード・ソフト両面にわたる機能や資源を、地域コミュニティの再構築に活かす。
- 社会教育・生涯学習は、学習機会や情報サービスなどを提供することで市民の意識向上や自主的なコミュニティ活動を支援し、まちづくりにおける住民参加のしくみのひとつとして捉えなおす。
- 教育行政を担う公共サービス労働者のあり方を「経験的専門性」という観点から再認識し、市民協働の立場に立った公務労働の職域を再定義する。
この提言が、地域教育を考えるあらゆる場で議論のきっかけとなり、各地で充実した地域教育が展開されることを期待します。